58_技師は数字を愛しすぎた

技師は数字を愛しすぎた【新版】 (創元推理文庫)

技師は数字を愛しすぎた【新版】 (創元推理文庫)

パリ郊外の原子力関連施設で、突然銃声が鳴り響いた。人々が駆けつけると技師長が射殺され、金庫からは重さ20キロほど核燃料チューブが消えていた! パリ市民を核爆発の恐怖、放射能汚染の危険にさらす怖ろしい危険物が盗み出されたのだ。国際スパイ事件なのか? 司法警察の捜査が始まった。そして現場は密室状況にあったことが判明する。更に続く密室状況下の事件。フランスを代表する共作作家による不可能犯罪ミステリの傑作。(東京創元社HPより)

しばらく入手困難だった本作も、お手ごろ価格で読むことができるようになりました。クラシック見直し(新版)については、今後も引き続いていってほしいものです。さて、本作はフランスが誇るミステリ作家、ボアロ&ナルスジャックの本格モノです。ボアロ&ナルスジャックといえば緊張感あふれるサスペンスを思い浮かべますが、本作はまさかの密室モノ。それも殺人だけでなくチューブなる核燃料までが消失してしまいます。このあたりはさすがボアロ&ナルスジャック。サスペンス要素を盛り込んでストーリーに幅を持たせてくれます。密室トリック自体は勘のよい人なら、状況証拠をもとにピンとくる程度の軽いものです。トリックが軽い分、核燃料チューブ消失にも読者の目をひきつけてスパイ事件を匂わせているものの、技師を殺してまで奪ったチューブの使い道にまったく言及していないため、腰砕けになってしまった感を否めません。もしかしたら、密室モノとして完成させるのではなくて、チューブを中心としたサスペンス物にしたほうが、ボアロ&ナルスジャックの本領が発揮できたのではないかと考えてしまいます。トリックも悪くないし、話も退屈さを感じさせないにもかかわらず、印象が薄いそんな作品。でも、ボアロ&ナルスジャックの本格モノという点では読み逃してならない作品です。

2012/05/29 asuka