64_五枚目のエース

五枚目のエース (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

五枚目のエース (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

警官の目前で事故を起こした車には、シャベルとともに女の死体が積まれていた。運転手の男は逮捕され、死刑判決を受ける。執行まであと9日間。そこへきて元教師の素人探偵ミス・ウィザーズ首を突っ込んできた。「冤罪かもしれないわ」。旧友パイパー警部を巻き込んで引っ掻き回しては”容疑者”を集めていくが、しかし決定打がでない。カードも出尽くしてしまったと思われるところでミス・ウィザーズはある提案をする。「みんなを集めてほしいの」。5枚目のエースはすべてをひっくり返すのか−(表紙見返しより)

代表作の『ペンギンは知っていた』が本格ミステリだったのに対して、本作はデッドライン物ということもありサスペンス性が目立っていた感じがある。限られた時間で物語を決着させる必要もあり、普通のデッドライン物では時間(物語)が進めば進むほど、真相がどんどん見えていくものだが、パーマーはミス・ウィザーズという魅力的なキャラクターを最大限活かすためか、そんな当たり前な展開は用意してはいなかった。そこに本作の楽しさと驚きがある。ページが進めば進むほど、ミス・ウィザーズは切り札を奪われていって、万策尽きるまで追い詰められるのだが、思いつきの行動で思ったような答えが出ないため、続きどうなるのかと読者はヒヤヒヤさせられる。ミス・ウィザーズのキャラクターと破天荒な行動がユーモアを誘っていて、緊張感が薄くなりがちではあるが、事がうまく運ばないことでその緊張感を保っている。デッドライン物の特徴であるサスペンス性が失われていない。このあたりは、パーマーの上手さである。
結果的には最後の最後で起死回生の罠がドンピシャでハマるのだが、そこはもう少し罠を張る前に犯人解明の論理的なヒントが欲しかった。また、事件の真相に迫るにあたり、ミス・ウィザーズとは別の線を捜査していたパイパー警部の捜査結果などを絡めてもらい、パイパー警部の存在感を高めて上げても良かったのではないかとも思った。
本作が発売される前に『被告人、ウィザーズ&マローン』が発売されている。こちらは、本作の主人公ミス・ウィザーズとクレイグ・ライスが生んだジョン・J・マローンが夢の共演を果たしている。パーマーが執筆を担当していることもあり、雰囲気はミス・ウィザーズ物に近い感じを受ける。二人のドタバタコメディーを中心としているが、ミステリとしてもしっかりしているのでこちらも是非とも読んで欲しい。
ミス・ウィザーズものは『ペンギンは知っていた』といくつかの短編が翻訳されているだけなので、本書をきっかけに多くが翻訳されて欲しい。ミス・ウィザーズのユーモアをこのまま隠しておくのはもったいないと思うのは私だけではないはずだ。
タイトルの「The Green Ace」の由来がイマイチわかり難かった。暴君とのカードゲームなどで調べて見たがヒットしなかったこともあり、最後の切り札的なニュアンスは伝わって来たが、ちょっと消化不良。
2014/08/16 asuka