56_マシューズ家の毒

マシューズ家の毒 (創元推理文庫)

マシューズ家の毒 (創元推理文庫)

嫌われ者のグレゴリー・マシューズが突然死を遂げた。すったもんだの末に検死を実施したところ、死因はニコチン中毒で、他殺だったことが判明。だが故人の部屋はすでに掃除されており、ろくに証拠は残っていなかった。おかげでハナサイド警視は、動機は山ほどあるのに、決め手がまったくない事件に挑むはめに・・・。(表紙より)
「紳士と月夜の晒し台」に続く、ハナサイド警視シリーズの2作目。帯でも執拗に煽ってますが、巨匠セイヤーズ認めた実力派の異名に負けることのない作家です。本作はのっけから、故人をとりまくおば様方が、ピーチクパーチクにぎやかしい。あえてにぎやかな演出をしているには何かわけがあるのかと、それぞれをじっくり観察せざるを得ない。なので序盤で結構神経を使います。そこへ、本作一番の曲者、故人の遺産相続人であるランドールを登場させられる。故人に対してにぎやかしかったおば様方が輪をかけてにぎやかしくなって行くのは、舞台のドタバタを見ているよう。ほほえましくもあり、疑わしくもあり。さらに、ランドールとハナサイド警視の対決にも目が離せない展開。ミステリのプロットに加えて、この演出を施した本作は、前作ははるかに上回るできなのです。前半のにぎやかしさから、中盤のスリル、そして終盤の緊張感を経て、ランドールとハナサイド警視の決着の余韻まで、全編を通して言うことのないできばえです。主人公のハナサイド警視をも凌駕したランドールをみて、邦題の「マシューズ家の毒」は絶妙だと関心しました。
付け加えておきますが、杉江松恋氏がステラ・マシューズという登場人物の「ツンデレ」を堪能して欲しいと言っていたのを見て、大きく頷きながら爆笑しました。あるタイミングでの「ツン」から「デレ」への変貌も是非、楽しんでください。

2012/05/23 asuka