55_蝋人形館の殺人

蝋人形館の殺人 (創元推理文庫)

蝋人形館の殺人 (創元推理文庫)

行方不明の元閣僚令嬢が、他殺死体となってセーヌ河で発見された。予審判事バンコランは、彼女が最後に目撃された蝋人形館の館主を尋問したのち、その館へ赴き展示を見て回るが、そこで半人半獣の怪物像に抱かれた女の死体を発見する。頽廃の都を震撼させる異様な殺人事件の真相とは。優雅な装いの下に悪魔の冷徹さと知性を秘めたバンコランの名推理。新訳にして初の文庫化(表紙カバーより)。
本作も長らくポケミスが品切れになっていたせいで、なかなか読む機会に恵まれなかったバンコラン物。あとは『四つの兇器』だね。カーは、四の五の言わずに楽しんだモン勝ちです。独特の世界観といい、クセのある登場人物といい、掟破りの作者主張といい、すべてを受け入れるだけの心の余裕と作品を楽しもうとする前向きな姿勢。これが大事です。正直、本作だって蝋人形館である必要性は全くないわけで。中盤から終盤で繰り広げられるジェフ・マールの冒険なんて、見方によっちゃ、とんだ茶番ですよ。そんな叩いて、暴れて埃が濛々と立ち込めた中に、本格たる伏線が仕掛けられているわけです。バンコランが犯人を明かして、その理由を述べる段で、思わず「ズルイ!」って言いたくなるけど、でも確かにちゃんと前もって提示されていたことを思い出す、それもすんなりと思い出すことができるくらいにハッキリと書かれているんだ、これが(あぁ、憎たらしい・・・)。それを楽しむのが、本当のカーの楽しみ方だと信じて已まないのですよ。
それにしても、本作のバンコランとマールを見ていて、つくづく御手洗と石岡君だなぁと感じました。
2012/05/07 asuka