20_衣更月家の一族

衣更月家の一族 (ミステリー・リーグ)

衣更月家の一族 (ミステリー・リーグ)

「すぐ来てください! 姉が・・・、私の夫に殺されたんです」凶器の花瓶には通報者の夫の指紋が付着、その夫は逃走中・・・。これを捕まえれば万事解決、当初は単純な事件と思われたのだが、数日後に男が出頭、そこから思わぬ展開を見せ始める・・・(表紙より)

これは面白かった。目次を見たときに「廣田家の殺人」、「楠原家の殺人」、「鷹尾家の殺人」、「衣更月家の一族」となっていたので、短編小説かと勘違いしたくらい。最初の「廣田家の殺人」はそれ一編である程度、話は完結してしまっているし、読み進めていっても「楠原家の殺人」と「鷹尾家の殺人」が「廣田家の殺人」とどう関係してくるのかが、さっぱり見当がつかない中、「衣更月家の一族」ですべての事件がマージされていく手法に脱帽でした。注意深く一編一編を読んでいれば、どこかで(鷹尾家の殺人あたりで、ピンと来たかも)関係に気がついたのかもしれないけど、一編の出来がよすぎて、全体を俯瞰する行為を忘れさせたことが作者の勝利。三篇ともに毛色が違う殺人事件だったこともあり、唯一の関係は「金」だけだなとしか思えずに読み進んでいたものの、実はある要素がこんなにも重要だったなんて。あたりまえのように各章に埋め込まれていて全く最後まで気がつきませんでした。
そんなプロットにも脱帽なのですが、もうひとつ脱帽したのは、家系図といギミック。旧家のように馬鹿でかい家系図ではないけれど、ちょっと面倒な家系図ひとつで、ここまでいろいろと仕掛けられることが、今の法律でも(今の法律だから?)できること。60歳の高齢ではありますが、こういう作品がかける作者をデビューさせたということは、国内のミステリもまだまだ侮れませんね。

2012/04/17 asuka