51_死の扉

死の扉 (創元推理文庫)

死の扉 (創元推理文庫)

のどかな田舎町ニューミンスターのファンシーショップで深夜、店主のエミリーと巡回中の警察官スラッパーが殺された。なにかと悪い噂の絶えないエミリーを殺そうとする容疑者はすぐに浮上してくるものの、善良なスラッパーまでをも殺すまでの理由がみあたらない。パブリックスクールの歴史教師キャロラス・ディーンは、ちょっと生意気な生徒ルーパート・プリグリーに煽られて探偵役を引き受けるのだが。

長いこと、入手困難だったレオ・ブルースの「死の扉」が、やっとお手軽価格で読めることになり、読者としてはうれしいかぎりである。レオ・ブルースの生み出した探偵は、本作のキャロラス・ディーンのほかに、ビーフ巡査部長がいる。ビーフ巡査部長が主役の作品のいくつかは、現在も入手可能で比較的読むチャンスがあるのだが、ディーンシリーズは原書房から出版されている「骨と髪」だけだった(「ジャックは絞首台に!」が社会思想社から翻訳されていたが、版元の倒産でこれまた入手困難)。作品リストは本書の解説に詳しいのでそちらを参考にして欲しい。
さて、本作だが、古典ミステリ特有のフェアプレイ精神で、登場人物の証言で謎解きの鍵をすべて提示してくれる。アドベンチャーゲームをやっているかのごとく、ストーリーが展開されていく。読者が探偵役に入り込みやすい作風なのだが、動機に対しての視点を変えないと、解決に導かれない。わかりやすそうではあるが、頭を使って読まないとダメだという作者の誇りみたいなものを感じる。ただ、謎解きが終わったあとに、ワトソン役のプリグリーが「かなりはったりもあったし、あちこち曖昧な点もあったけど-」といっているとおり、回答の詰めが甘いところがあるようにも感じる。この非パーフェクトさが、読者という素人探偵と歴史教師という素人探偵が等身大の存在であると感じさせ、親しみ安さを生んでいる。ディーンシリーズが23作も書かれ、読まれてきたのは、シリーズ第1作となる本作で、読者がディーンに親しみを感じたからこそなのかもしれない。これを期に、ディーンシリーズの翻訳が増えることを期待したい。

2012/2/6 asuka