18_死墓島の殺人

死墓島の殺人

死墓島の殺人

前作「首挽村の殺人」に続き、舞台設定はいたって横溝的志向。岩手県の釜石沖にある孤島の偲母島。この島は周囲の人々から「死墓島」という不気味な名前で呼ばれていた。その島で島の実力者が断崖に張りつけにされて殺されていた。さらに、島の古くからの言い伝えの見立て殺人が起こり、捜査を担当した藤田警部補は「死墓島」の裏の歴史を知ることになる。閉鎖的な島民、「死墓島」と呼ばれる由来、脈々と続く因縁。400年前の伝説の惨劇が繰り返される。
ストーリーと舞台設定は前作同様に申し分ない。あとはこの魅力的な素材をひとつの作品として完成させてくれるのか。前作のできは贔屓目に見ても良かったとは言えなかった。それだけに本作での巻き返しと成長を期待していた。が、結果はやはり(少なくとも私には)期待に応えてくれていない。ストーリー、「死墓島」の舞台、登場人物、ミステリ要素が一体化されず、ちぐはぐにパッチワークされた感じが拭えない。島の歴史や言い伝えは説明口調に終始されてしまっているし、島の住民もぼやけてしまって確立されていない。過疎の問題も宙に浮いたようで、殺人の動機と結び付けたかったのだろうと想像するが、関連性と説得力にまでまとめきれていない。ちぐはぐさのせいなのか、前半のテンポの悪さが目に付き、逆に後半は急ぎすぎであり、謎解きが作者ノートのお披露目のような形に陥り、小説としての魅力が削がれてしまった感じを受けるのだ。
前作の感想にも書いたことなのだが、ガジェットとロジックとストーリーの融合を表層的ではなく、深層的に絡めることができるかどうか。登場人物を魅力的にみせることができるかどうかが鍵だと思う。
まだ、作者が登場人物を意識的に動かそう、踊らせようとしているのではないだろうか。その作者と登場人物の間のぎこちなさ、強引さがとれたときに小説としてのまとまりが見えてくるのだろう。藤田警部補をシリーズ化させるのだとしたら、早くキャラクターとして一本立ちさせてあげて欲しい。そして、この横溝的な設定を支配させてあげたい。
いろいろと難癖をつけているのだが、これからも読み続けて行きたい作家である。

2008/11/16 asuka