48_スリー・パインズ村の不思議な事件

スリー・パインズ村の不思議な事件 (ランダムハウス講談社文庫)

スリー・パインズ村の不思議な事件 (ランダムハウス講談社文庫)

ルイーズ・ペニーはカナダの作家で、本作はCWAの最優秀処女長編賞を受賞している。いろんなサイトの本作のレビューで言われているように、英国ミステリの雰囲気を踏襲している秀作である。作品がかもし出す雰囲気、ストーリーの組み立て、丁寧な語り口などP.D.ジェイムスを思いおこさせる。
カナダ、ケベック州の小さな村スリーパインズで、胸を矢で射抜かれた老婦人の死体が見つかる。秋には鹿狩りがおこなわれる村なため、ハンターの誤射による事故かと思われた。しかし凶器の矢が見当たらないなど不審な点も多く、捜査を担当することになったガマシュ警部は、顔見知りの殺人ではないかと慎重に捜査を進める。誰もが顔見知りな一見平和な小村にも、目に見えない複雑な人間関係が潜んでいた。というストーリー。
探偵役のガマシュ警部、その右腕となるヴォーボワール警部補。新たにガマシュチームに配属された新人刑事ニコル。それぞれの人間性が丁寧に書き込まれており、ガマシュとヴォーボワールがまとめるチームに、負けん気の強いニコルが加わることでチーム内に立ち込める不協和音。殺害された老婦人ジェーンを取り巻く村の住民たち。ジェーンの親友だった隣家のクララ、その夫ピーター、ピーターの幼なじみベン、ベンの母親でジェーンに影響を与えつづけていたティマー。古くから村の住民が組み上げてきた人間関係。その人間関係の上でつむぎだされる色々なエピソードがどのように事件と関係しているのか。そして殺されたジェーンが書いた絵に隠された秘密。この3要素が実に上手いことから見合い、ひとつの無駄も感じさせない。情景的な描写にとどまらず人間の内面までを丁寧に書ききることで、関係者の思惑が犯人をベールに包みこむのでミステリとしての読み応えに繋がっている。近年の海外作品ではなかなかこの手の本格ミステリ作品が読めなかったが、期待の新星ではなかろうか。ガマシュ警部ものはシリーズ化されているようで、2作目はアガサ賞を受賞し、3作目はアーサーエリス賞にノミネートされている。2作目以降の翻訳が待ち遠しい作家である。素直にお薦めしたい作品、作家である。

2008/11/09 asuka