47_ウォリス家の殺人

ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)

ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)

ディヴァインということで、2008年度のミステリランキングで上位だった「悪魔はすぐそこに」と比べてしまいたくなる。が、同じ作者と言えど、小説の世界観がこんなにも違っているとは思いもしなかった。「悪魔はすぐそこに」は、主人公が率先して探偵役を買って出て事件解決に奔走する。本作では主人公が推理に前向きではない。いつのまにやら探偵役に抜擢されて、一見単純そうに見える事件とある人間の過去に振り回されるのである。前者が「動の世界観」ならば、本作は「静の世界観」のように私には感じられた。
人気作家ジョフリーの幼馴染モーリスは、ジョフリーの様子が最近おかしいと彼の妻から連絡を受ける。ジョフリーの邸宅「ガーストン館」に訪れると、彼の兄であるライオネルから半年に渡り脅迫を受けていると知らされる。また同じ時期に、自身の日記を出版することになっており、その出版計画が館の人間関係に影を落としていた。そんなさなかジョフリーの兄のコテージで、兄弟が争った痕跡を残して忽然と姿を消した。まもなくして兄の死体が発見されたと連絡がとどく。
そんなストーリーが展開されていれば、兄弟のいざこざを装った殺人事件へのミスリードだとあたりをつけて読み進めていくのは自然の摂理。あまり乗り気ではない探偵役のモーリスが見つけてくるパズルをピースを当てはめていくのだが、なかなか絵にならない。淡々と読み進めていって、気が付けば、そこかしこに張り巡らされた伏線をスルスルとかいくぐり、結末に至る。そして、すべての真相を読み終えたときに、何の気なしにかいくぐってきた伏線が姿を現す。本格を本格として意識させながら、伏線を見事に物語のなかに隠しさり、最後の最後で読者にアッと言わせる。「悪魔はすぐそこに」でも伏線の隠し方は見事であったが、またしても見つけ出すことをさせてもらえずに最後まで導かれてしまった。小説の世界観は違っても、ミステリのシャープさは何も変わっていない。さすがはディヴァインという作品である。

2008/10/28 asuka