46_霧と雪

霧と雪 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

霧と雪 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

誰が撃ったのか、誰が撃たれる予定だったのか。
親族が集まる屋敷で事件は起きる。屋敷の主人であるウィルフレッドが銃撃を受ける。書斎にいるところを狙われたようだ。屋敷にいる誰にも動機はあるようだから、それぞれが独自の推理を展開し誰しもが疑心暗鬼に陥っていく。偶然にも食事に招かれたアプルビイ警部が捜査に乗り出すのだが。
アプルビイ警部シリーズのなかでも異色作であろう。作品から受ける印象は、なにやら迷路に迷い込んだみたいな感覚だ。コリン・デクスターのモース警部シリーズのように、次から次へと推理がひねり出されていくのだが、モースとは違いそれぞれの推理が破綻しきれずにそれらしい信憑性を持っている。そのため、パズルのピースをはめ込むような単純な作業とはならず、推理すればするほど霧の中に霞んでいってしまう。ラスト4ページまで真相は語られることもなく、散々迷路で迷った挙句、どこをどう通ってきたのかわからないまま出口にたどりついてしまった読後感なのだ。けれども、ふと思い返してみれば、事件が発生するまでのパートでしっかりと伏線が張られていたことに気が付く。推理の手がかりはアプルビイ登場までしっかりと書かれていることを思い知らされる。
読み終わってすぐにガテンはいかないけれど、一息ついて思い出す。読者が決して忘れてはいないけれど、後にならないと思い出せないヒントの何気ない提示の仕方は、見事としか言いようがない。マイケル・イネスを読んだことがある人もない人も、「してやられてみて」はいかがだろう。

2008/10/15 asuka