44_ボルヘスと不死のオランウータン

ボルヘスと不死のオランウータン (扶桑社ミステリー ウ 31-1)

ボルヘスと不死のオランウータン (扶桑社ミステリー ウ 31-1)

探偵役に著名人を据えるパターンのミステリはいくつかあるが、ストーリーのなかで探偵キャラクターがばっちりとはまり、描き切れているものは少ない。残念ながらこの作品のなかのボルヘスも、いまいちしっくりと当てはまっていない印象だ。ダイイングメッセージと密室の謎に取り組ませながら、ポーやカバラクトゥルー神話などの薀蓄の迷宮に誘い込む趣向は面白いのだが、各章に分散されてしまうため、散発的な感じを受けストーリーと謎解きと薀蓄の融和的な一体感が阻害されている。ボルヘスならではのテーマを根底に置き、事件と謎でぐるりを囲み、外へと知的な情報を発散させていく方が持ち味がだせたのではないだろうか。
外郭を書くだけである意味ネタ晴らしになってしまうので明記はできないが、最終章までには手がかりが提示されており、本格ミステリの体裁を保てている。
作者の情報が少ないのでなんとも言えないが、小説を書きなれていない感じ。いろいろ肉付けしすぎて破綻するよりも、これはこれでいいのかもしれないが。

2008/07/13 asuka