41_深海のYrr
- 作者: フランク・シェッツィング,北川和代
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/04/23
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地球温暖化に伴う自然環境の破壊が昨今叫ばれている中、ある意味この小説の登場は必然だったのかもしれない。加減の知らない人類に対して、海という最も身近であり神秘的な世界が反乱を起こす。警鐘をならすなどといった生半可なことではなく、人類の殲滅が目的であるかのように。その海からの反乱を科学的に解き明かしながら、時限的なスリルを盛り込み、前半の山場である津波のシーンまでは息を呑むほどの緊張感とスピード感で一気に読ませる。後半は、海の反乱の首謀者が科学者たちによって導き出され、真っ向から対峙しはじめてからのストーリーの展開に広がりを感じられないものの、最後までスペクタクルな娯楽小説として楽しむことができる。
ただ、冒頭から海棲生物が引き起こす人類へのレクイエムの答えが、書ききれていない気がしてならない。なぜ人類を殲滅しうる攻撃を行ってきたYrrが、その矛先を収めてしまったのか。人類を生かし続けることで、Yrrに、地球にどれだけのメリットがあると判断したのか。人類がYrrに絶滅させられないために、アメリカの司令官が取った行動が否定されるのはなぜなのか。なぜ、科学者たちはYrrの存在と行動に対して葛藤しないのか。などなど、複線がまったく回収されていない。人間が行っている自然破壊に警鐘をならすのであれば、ハリウッド映画の結末のようなあたりさわりのない終わらせ方をするのではなく、いっそのことYrrが人類に勝利し地球が守られたとか、人類とYrrが共倒れになって地球が知的生命体の再生をはじめるといった極端な終わりを提示することで、メッセージの発信には効果があったと思うのだ。
この小説は、環境破壊への警鐘とか、深海の神秘とかを求めずに、娯楽小説として読むのが正しい読み方だ。極論を言えば、ただ単にハリウッドで映画化してもらうために書いた小説なのかもしれないのだから。
2008/5/21 asuka