40_検死審問

検死審問―インクエスト (創元推理文庫)

検死審問―インクエスト (創元推理文庫)

「検死審問」もしくは「検死裁判」。古典的な海外ミステリを読んでいると、時々お目にかかる単語である。簡単に言ってしまえば発見された死体が、自然死なのか他殺なのかを判断する裁判である。他殺と認定されれば、事件の捜査が本格的に開始される。ゆえに「検死裁判」では、犯人の探しや犯人への有罪無罪を判定する場ではない。この基礎知識を踏まえていないと、本書の魅力の一端が損なわれてしまうのかもしれない。本書の魅力の一端は、タイトルにあるといっても過言ではあるまい。一見するとリーガルものととらえられそうなタイトルだが、先の基礎知識を踏まえていると、俗に言うリーガルものではなく、「検死審問」という事件捜査の手前の段階でなにを推理するのか、検死官と陪審員と証言者で論争するネタは何か等など、門前での楽しみが増すからある。
作者のパーシヴァル・ワイルドが劇作家なのも作用しており、芝居を見ているようにストーリーが展開していく。検死審問の記録で書かれている点も、そんなストーリー展開に手を貸している。映画ではなく芝居。優雅ななかに緊張感がただよう、あのピリッとした感じ。客席の最前列に自分が陣取って、ぐっと魅力的に、スーッと自然にその芝居の世界に引き込まれていくのである。そんな読書感が味わえる、古典の名作である。

2008/04/27 asuka