17_真景累ヶ淵

真景累ケ淵 (岩波文庫)

真景累ケ淵 (岩波文庫)

桂歌丸「真景累ヶ淵」

桂歌丸「真景累ヶ淵」

落語の神様とまでいわれる三遊亭円朝が生み出した、怪談の傑作である。累ヶ淵は祐天上人が活躍する心霊噺があり、この真景累ヶ淵はその後日談と言うことになっている。後日談といっても、祐天上人が成仏させた幽霊が再登場したりするわけではなく、独立した噺になっている。舞台を累ヶ淵にしたことと、醜い顔をした女性の怨念をベースとしていることから、後日談という位置付けにしたものと思われる。
この作品の読みどころは、なんといっても人間の相関関係だ。鍼医兼高利貸しの皆川宗悦と旗本である深見新左衛門との因果からはじまり、お熊の懺悔で明かされる真相にいたるまでの物語の膨らませ方が見事と言うほかない。一編の長編ではあるが、いくつかのエピソードが連なって物語りが形成されているので、読み方によっては短編連作にも見える。落語の原作のせいか、それぞれの短編は男女の痴情と殺人と言った同じような内容だが、展開されてきたものが最後にひとつに帰着して大団円を迎える。短編の中にちりばめられている伏線を辿っていくと、登場人物の相関関係が見事に現れてくるのだ。大長編のため落語の高座では、短編を切り抜いて噺されることがあるようだが、やはりこの話しは全編を聞く(読む)ことで、はじめて因果ばなしとしての怪談として成立するものである。
各短編のあらすじと因果相関図は次のサイトに詳しい(http://www.edo.net/hyakunen/neta/kasane.html)。だが、サイトであらすじと相関図を確認する前に、本作を一度通しで読むことは必須条件だ。

さて、本作を読むにあたり、CDとのリレー形式で読むことにしてみた。桂歌丸の噺を聴いてから該当部分を本で読み進めて行った。これはこれでなかなか面白い試みだった。歌丸が手厚く脚色した部分は、原作ではさらっと流されていたり、原作で書き込まれている箇所を脚色していなかったり。それぞれで補完しあっていることが興味深かった。文庫460ページの大作を聞かせる腕。凄いものだ。歌丸は話しを5分割して編集しており、1話は約50分。50分という時間を感じさせることもなく、飽きるさせることもない。芸を極めるというのは、凄いことなのだ。

2008/04/20 asuka