39_グリンドルの悪夢

グリンドルの悪夢 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

グリンドルの悪夢 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

パトリック・クェンティン初期の秀作。「悪女パズル」のような派手なパズルスリラー要素はないものの、サスペンスフルな内容に仕上がっている。黄金期に活躍している作家ではあるが、こってりとした本格路線ではないのが特徴だと思う。展開の意外性やひねりを効かせたラストなど、黄金期におけるイレギュラーケースだ。
本作「グリンドルの悪夢」は展開の意外性は薄いものの、ラストのひねりの上手さには脱帽だ。ひねりと言っても、いわゆる「どんでん返し」とは一味違う。意図的なまでのミスリードに勘の効く読者は早くから気がつくだろう。クライマックスの以外さと面白さがこの作品の最大の魅力であることは間違いない。ヴィンテージミステリは本格ばかりのワンパターンなので敬遠していると言う読者がいるのであれば、本作を読んでヴィンテージミステリを見直して欲しい。こういう作品がまだまだ未訳で埋もれているのだ。
残念な点をひとつ。登場人物の紹介が本書にはない。グリンドル村という比較的小さなサークルで事件が展開されるのだが、登場人物は少ないものの、小さいサークルという要素が登場人物の関係性、関連性を巧みに生み出している。序盤でその人間関係を把握するのが難しいかもしれない。ちょっとした出版社の心遣いだとは思うのだが、やはり海外モノのミステリには1、2ページの人物紹介は必須として欲しい。

2008/04/12 asuka