16_探偵の夏あるいは悪魔の子守唄

これはオマージュなのかパロディなのか。地名にはじまり、探偵の名前だったり、刑事の名前だったり、村人の名前だったり、宿の名前だったり。プロットやセリフまでさえも借用。横溝正史作品を深く、そして純粋に愛しているからこそ、ここまでの作品が書き上げられるのかもしれない。
一見、横溝の有名作品(といっても、小説より映画の方)をつぎはぎしているだけのように見えるが、ちょっとしたひねりも効いていて読み物としては面白い。
作中の雰囲気は、横溝が書き上げる小説の世界観よりも、市川映画の世界観に近い。市川崑金田一シリーズをよく観察していると思う。探偵の軽さと村人のユーモラスさが表に立ちすぎて、陰惨さが殺されてしまっているのが残念ではある。「八馬鹿村」という小ばかにしたネーミングのなかに、古い因習が残る暗い雰囲気をかもしだせれば、表層的なユーモラスさとモデルにしたと思われる市川映画の持つ陰惨さとの陰陽なコントラストの中で、世界観の厚みが増し、独自の舞台でキンダイチを思う存分暴れさせることが出来たのではなかろうか。
ミステリ部分は、本編で回収しきれなかった伏線をエピローグで帳尻合わせをするなど、雑さが目に付くが、そこに目くじらをたててしまうと、横溝パロディ小説の面白みがなくなってしまうのだろう。この作品に限っては、副産物的にミステリを楽しめればそれでいいのかもしれない
山梨の小さな地方出版社から出された本書。東京創元社から文庫化されたのは、ある意味奇跡に近い。

2008/04/01 asuka