38_灰色の女

灰色の女 (論創海外ミステリ)

灰色の女 (論創海外ミステリ)

謎解きの面白さはないものの、冒険小説とサスペンス性で十分楽しめる一冊。ゴシックな雰囲気の中に、ドタバタ劇が織り交ぜられなんともいえない作品に仕上がっている。一つ一つのエピソードは置いてきぼりでもかまわない、前に進むことだけが肝心な昔の新聞小説的な感じを受けた。100年以上も前に書かれた作品である。これくらいのエンターテインメント性を盛り込まなければ、当時の大衆受けはしなかったのかもしれない。古臭い感じは拭いきれないが、理屈を抜きにして楽しめばよいと思う。とは言っても、灰色の女に皆が惚れていくのはイマイチ理解に苦しむのだが。外見は美人みたいだけど、決して性格がよいわけでもなく、守ってあげたいか弱い印象も受けないし。この作品に限ったことではないけれど、古典と呼ばれる作品には常にこの恋愛の違和感じる。
現代のようにテレビやゲームなどがない時代、本を読むことは最高の娯楽だったはずだ。ましてや海外のサスペンスをである。黒岩涙香の訳がどの程度だったかはわからないが(筑摩文庫で黒岩涙香訳は読める)、雰囲気たっぷりの時計塔、謎の美女、首なし死体、脱走劇などなど、息もつかせぬ展開のストーリーは人を虜にするには十分すぎる。虜になった一人に江戸川乱歩がいて、乱歩はのちに「幽霊塔」としてリライトしたのは有名な話だ。読み比べてみるのも悪くないだろう。

2008/03/21 asuka