37_狡猾なる死神よ

狡猾なる死神よ (創元推理文庫)

狡猾なる死神よ (創元推理文庫)

墓石のデザイン研究をしている主人公。同僚が持ち込んだ奇妙なモニュメントを配した墓石。その墓石と埋葬されている女性の謎。その墓石がある芸術家村で起こる殺人事件。村と墓石に隠された過去とは。
取り上げる材料が非常に面白いと思った。墓石に対しての美術的な観点と、プロローグで語られている墓石にまつわる過去のエピソード。それに墓石に銘された詩の謎。処女作ということもあり、プロットはいいものを持っていたけど、うまく生かしきれていない感じを受けてしまった。埋葬された女性の秘密、芸術化村の過去、現代の芸術化村でおきた拳銃自殺の真相という三つの話の軸があるのだが、ブツ切れに展開させてしまい、最後に無理繰り関係づけているように読めてしまった。ストーリー性の部分に力がつけば期待が出来る作家だと思う。
若い女性と死神のモニュメントを配した墓石の描きかたなど、なかなかのものだし、芸術家村の風景、人物描写などもうまく書かれている。墓石という死の象徴を全面に押し出しているにもかかわらず、暗いイメージの中にある美術的な光の当たる明るさを見出しているところが、上手く書けているという印象をあたえているのであろう。
物語りのまとまりの完成度を覗けば、合格点を獲得している一冊である。

2008/03/15 asuka