36_イスタンブールの群狼

イスタンブールの群狼 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

イスタンブールの群狼 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

オスマン帝国を震撼させる仕官惨殺事件が発生。宦官の主人公ヤシムが真相にせまる、歴史ミステリ。歴史ミステリにありがちな、時代考証置き去りのストーリーではなく、冒険小説としてよく出来た作品に仕上がっている。
物語の舞台は19世紀のトルコ、イスタンブール。16世紀には中近東から北アフリカや東欧までを支配下に置いたオスマントルコ。全盛期の勢いは薄れ、ヨーロッパの列強に脅かされ始めた19世紀のイスタンブールの街並みや人々の生活の描写を楽しませてくれる。スルタンと呼ばれる皇帝は堕落し、宮廷は腐敗の色が濃くなっている時代。そんな中で起きる連続殺人事件。歴史的要素を色濃くだしていおり、短めに区切った章立てで物語のスピード感を生み出している点など、冒険サスペンスとしての面白みは評価できる。イェニチェリの歴史の絡め方や現在のイスタンブールの堕落、そして未来への不安などなど動機になりうる風呂敷の広げ方もうまい。回収の仕方が早急すぎた感は残るものの、クライマックスの緊張感は楽しむことが出来た。
謎詩や殺された士官が発見される場所などの、パズル的なミステリ要素を盛り込んではいるが、上記の冒険小説のようなストーリー展開にはマッチしきれなかった印象を持った。パズルの謎解きに終始すると、19世紀のイスタンブールを舞台にしたという歴史部分の意味が薄れてしまうことは目に見えているので、ミステリは薄味気味で正解だったと思う。

2008/02/24 asuka