35_ビーコン街の殺人

ビーコン街の殺人 (論創海外ミステリ)

ビーコン街の殺人 (論創海外ミステリ)

ロジャー・スカーレットのデビュー作。「密室二重殺人事件」として抄訳されていたものが初完訳となった。
密室殺人が連続して行われるので、トリックに重点を置いているのかと思わせる構成。しかし密室トリックについては、作品半ばでご開帳しているので拍子抜け。であればフーダニットということになる。うまくミスリードしてくれていて面白さはあるのだが、なにかパンチに欠ける印象を受ける。序盤で2件の殺人が行われるが、中盤でのヤマ場がなく淡々と進み、最後のヤマ場も大きな盛り上がりにならないからなのだろう、全編にわたって平坦な感じなのである。かと言って、けしてつまらないわけではない。探偵役のケインの推理も面白いし、当て馬役のモーランとの掛け合いもテンポがあってよい。語りべ役のアンダーウッドが精彩を欠くくらいか。もう少し、アンダーウッドが精力的に動けていれば、ストーリーにメリハリが生まれたのかもしれない。ケイン達の地道な聞き込みと、捜査を中心に据えることで、シンプルな本格ミステリとして体裁が保てているので、これはこれでよいのだろう。強く薦めはしないが、1930年代の本格黄金期の一冊として読んでおきたい作品である。
今読めるロジャー・スカーレットの作品では「ローリング邸の殺人」の方が、私は好きだ。スカーレットもあとは「白魔」の完訳を残すのみ。早く読みたいと思うのは、私だけではないはずだ。

2008/01/26 asuka