14_リベルタスの寓話

リベルタスの寓話

リベルタスの寓話

表題作「リベルタスの寓話」と「クロアチア人の手」の中編2編を収録。
島田荘司が唱える21世紀本格の実力を垣間見た一冊。もう論理だけの謎解き構成はミステリとして時代遅れということなのか。収録作2作では、世界情勢と現代医学を駆使しないと謎が解けない。石岡君のヘタレ度が上がったように見えるけど、けしてそうではなくて御手洗、ここでは作者である島田荘司の頭脳が、一般人からかけ離れ過ぎてしまったということなのではないか。もう一緒に犯人探しやトリックの解明をしましょうというレベルではない。
殺人の動機はといえば、オンラインRPGの細部まで熟知していなければ、到底たどり着けない。一方では民族意識が引き金になっていたり。ボスニア・ヘルツェコヴィナの紛争の真相をしならないとたどり着けない。現代に象徴されるバーチャル世界であったり、古くから人間の根底にくすぶっている自己優位性だったり。
そんなミステリとしての小説のなかで、人間の醜さをここまで引き出させるのは島田荘司しかいないのではないだろうか。平時では、死体を切り裂き、心臓以外の臓器を飯盒の蓋やマウスに置き換えてしまう行為が猟奇的に見えるが、戦時下で行われた公開処刑民族浄化の名のもとに行われたレイプや無差別な殺害の方が、よほど猟奇的で耐えがたいことだということ。作中で「語るのは、見ているのと同じくらいにつらいことだ」と老人に言わせているが、島田荘司ボスニア・ヘルツェコヴィナの紛争を調査したことを、小説と言う形ではあるが、日本人へ語ることはつらいことだったのかも知れない。

2008/01/13 asuka