32_道化の死

道化の死 世界探偵小説全集 41

道化の死 世界探偵小説全集 41

ナイオマーシュ自身が演劇に精通しているせいもあり、なかなか凝った舞台を作り上げている。「五人息子衆のモリスダンス」なる伝統の踊りの最中に、道化役の男が衆人環視のなか首を切り落とされる。捜査を担当するのはおなじみのアレン警部。踊る演者のみならず見物人という目撃者が多数いるなかで、誰が犯行におよんだのか。
登場人物が多い割には、際立ったキャラクターがいないので少々人物判定に苦しむ。また、民族色が豊かな伝統のダンスを想像するのが厳しいかもしれない。そんな欠点を差し引いても、本格ミステリとしての出来は言うまでもない。散らばったパズルのピースを、関係者への丹念な聞き込みと、推理で的確に組み上げていく。伏線の張り方が上手いので回収の際にとまどいを憶えることもない。トリックは説明されてしまえば、それほど大掛かりでもないが、かたく結ばれた結び目がスルスルとほどけて言うような感覚を覚える。派手さはないが、手堅い一冊であることは間違いない。するりと読み流すのではなく、じっくりと落ち着いて渡り合いたい作品である。

2007/12/13 asuka