29_KIZU−傷−

KIZU―傷― (ハヤカワ・ミステリ文庫)

KIZU―傷― (ハヤカワ・ミステリ文庫)

2006年度CWA2部門受賞の問題作。
愛情を受ける者、授ける者。愛情の授け方、受け方が歪んでいると両者ともに崩壊していく。救われる者など誰もいない。残るのは大きな心の傷のみ。殺人という行動に駆り立ててしまった原因も、突き詰めていけば、愛情の歪みによるものだった。只中に放り込まれた主人公に突きつけられる現実と真実。人間の心理を深く抉るサスペンスフルな展開。やり場のない絶望感を漂わせた作品だ。
キャラクターのつくり方、心理描写はピカイチ。サスペンスの緊張感も保っている。足りないのは、ストーリーの組み立て方と厚み。主人公の心理描写に特化しすぎているのか、ストーリー全体が薄くなってしまった感じが否めない。ストーリーに厚みが生まれれば、自ずと主人公以外のキャラクターが動き出し、事件に対してのミステリ度が増してくるのではないだろうか。ギリアン・フリンには、表層的な惨忍さばかりに趣をおく新人にはない、上手さを感じる。ミネット・ウォルターズを彷彿とさせる物があるので、今後の作品にも期待をしたい。

2007/11/3 asuka