25_大鴉の啼く冬

大鴉の啼く冬 (創元推理文庫)

大鴉の啼く冬 (創元推理文庫)

2006年度CWAゴールドダガー賞受賞作。イギリスの現代ミステリの傑作と言っても過言ではないできである。CWAの受賞作はどれをとっても遜色はないが、この作品はトップレベルである。
インクランドとノルウェーの中間に位置する、北の最果ての島シェトランド島。大きな島でもなく、住人は全て知り合いになりうる環境。その閉ざされた島で女子高生が殺害される。捜査線上には、8年前の少女失踪事件も浮上し、奇妙な共通項が判明する。殺人の動機は、少女失踪事件の真相は。
まず、シェトランド島の描写が素晴らしい。冬の間の北の町から想像される陰気さ、曇天が常に続き、積雪景色を霞める降雪景色。灰色のイメージを実に的確に、幻想的に見事に描かれている。殺人の舞台がかもし出す自然の雰囲気が手にとるようである。そのシェトランド島で起こる、女子高生殺人事件。陰気さのなかになんとなく華やかさを感じさせる。被害者の意外性が華やかさを担っている。そして真相。やはり陰気である。物語りを通して判明してくる被害者の性格。そして関係者の業。単なる謎解きで終わることがなく、4人の登場人物の視点から、それぞれの人間模様を通じてじわじわと明かされていく謎。終始張り詰めた緊張感と、シェトランド島が生み出す灰色の陰気さ。読者は、アン・クリーヴスのシェトランド島の世界へ引き込まれないはずがない。
アン・クリーヴスはイギリスでは既に20作も発表されている。今まで日本では名前を聞かなかっただけに、CWAを受賞をきっかけに、どんどん翻訳されること期待したい作家だ。

2007/09/02 asuka