24_殺人展示室

殺人展示室 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

殺人展示室 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

P.D.ジェイムズが読みやすくなっている。訳者が代わったわけではない。あのジェイムズ独特の重厚さが薄くなっている。章立ても今までになく短い。センテンスも短い。サラサラと流れるように読めるのはジェイムズらしさを感じない。急激に、こんなにも変化するとは思わなかった。正直、拍子抜けした。
とは言え、読みやすくなったからといって、内容までが薄くなったかと言えば、そこはP.D.ジェイムズ。いつものように、しっかりと登場人物を書き込んでいる。ハムステッド・ヒースにある私設博物館。第一次世界大戦第二次世界大戦の間にスポットをあてた、ユニークな博物館で起きる殺人事件。博物館に展示されている、当時の殺人事件を真似たかのような事件。容疑者は博物館にかかわる人物に絞り込まれる。けして数は多くないが、事件関係者ひとりひとりを克明に描いているのは、ジェイムズの真骨頂だ。人物をかきこむことがストーリー展開を邪魔することもなく、大御所の上手さを再認識させられる。
ジェイムズと言えば、作品の根底にあるテーマ。今回のテーマは、「人を恨む」ということか。自分では気がつかない行為が、人の恨みを買っている。恨みを抱いた人間は、解決策としていとも簡単に人を殺してしまう。いいようのない、現代の短絡的な社会に警鐘しているのではないだろうか。比較的若い世代ばかりが短絡的に行動しがちな報道ばかりだが、高齢者でさえ短絡的になりうることを忘れてはいけない。人間のえぐさを考えさせられる作品である。
さて、ダルグリッシュ警視長とミスキン警部の個々のストーリーだが、今回はダルグリッシュに大きな転機が訪れる。この部分をもっと書き込んでも良かったような気もするが、サッと読者の心配を払拭するエピソードにまとめるあたり、頭がさがる。ミスキン警部の葛藤は次回作以降で展開があるのかもしれない。楽しみである。

2007/08/27 asuka