07_謀殺 下山事件

謀殺 下山事件 (新風舎文庫)

謀殺 下山事件 (新風舎文庫)

昭和24年。戦後4年目のこの年、7月4日の下山事件にはじまり、7月15日の三鷹事件、8月17日の松川事件と鉄道3大事件と呼ばれる、国鉄での鉄道事件が起きている。下山事件は、初代国鉄総裁の下山定則常磐線の綾瀬付近で、轢死体となって発見された事件である。この事件は、「自殺説」と「他殺説」があり、公的には「自殺」として片付けてしまった。
この本では、当時の解剖結果や状況証拠をもとに「他殺説」を支持している。一方的な見方なのは百も承知だが、これだけ証拠として並べ立てられると、「他殺説」に軍配をあげたくなる。「自殺説」「他殺説」に白黒をつけるという意味では、十分なドキュメンタリーとなっているが、事件の真相に迫れているかというと少々疑問に思う箇所もあり、がっぷりヨツには組んでいる物の、土俵際でより切れず終いな感想を持った。最初は着眼点がよくて、真相に近づきそうなのだが、後半の謀殺情報あたりから、芯を抜かれた感じになってしまっている。時効後、事件関係者と思われる人物からの証言を掲載しているものの、信憑性に乏しいのが弱点ではないだろうか。全面的に信用するに値するだけの説得力が欠落しているのである。迷宮入りすべくして迷宮入りした、あれだけの大事件なのだからいたしかたないのかも知れないが。
冒頭、第1章の事件の経過には引き込まれるものがある。わずか50ページ強に、リアル感を植え込んであり、ここを読むだけで、下山事件とは何かを理解することができる。また、第2章で当時の社会世相がわかりやすく解説されている。この世相は、続く三鷹事件松川事件にも大きな意味を持っている。
鉄道3大事件で唯一、冤罪を招かなかった事件でもある下山事件。それを考えれば、これ以降の謀略の入口に過ぎないのかもしれない。

2007/03/19 asuka