20_ブラックウォーター

ブラック・ウォーター (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ブラック・ウォーター (ハヤカワ・ミステリ文庫)

T・ジェファーソン・パーカーを読むのは、これが初めて。初めて読むのなら「サイレント・ジョー」あたりが無難なのだろうけど。
MWA賞を2度も受賞しただけあって、小説の完成度は素晴らしかった。殺伐とした感じが拭いきれない類の警察小説を、これほどまでに感受性を高めるとは、なかなかできるものではない。キャラクターが途出することもなく、かといって脇役が埋もれてしまっているわけでもない。登場人物(捜査するほう、されるほうともに)の心理描写も丁寧に書き込まれているし、警察内部の人間関係もうまくバランシングされている。また、主人公にまつわる過去のエピソードの導入のしかたが上手い。「ブラック・ウォーター」はシリーズ3作目だが、1作目の「ブルー・アワー」、2作目の「レッド・ライト」のエピソードの絡ませ方が絶妙なので、既に読んでいる読者には良い回顧となるし、未読の読者には、「ブラック・ウォーター」の途中でも、過去2作を読みたくなるはずである。主人公が、いや、シリーズの世界が過去を引きずっているので、現在を読んでいても、過去を読みたくなるのは必然なのかもしれない。
ミステリ要素はやや淡白な感じを受ける。むしろ、この作品には、ミステリ要素を強く求めなくても良いのかもしれない。ミステリ的には、軽く添えられているだけの方が、シリーズの完成形とした、小説の完成度を高められるのだと思う。
文庫版のあとがきで吉野仁さんは次回作を期待しているが、このシリーズは「ブラック・ウォーター」で完結に到達したと感じる。主人公マーシをこのまま、そっとしておいてあげて欲しいという、いち読者の願望なのかもしれなが・・・。

2006/02/26 asuka