18_死者の季節

死者の季節 上巻 (ランダムハウス講談社文庫)

死者の季節 上巻 (ランダムハウス講談社文庫)

死者の季節 下巻 (ランダムハウス講談社文庫)

死者の季節 下巻 (ランダムハウス講談社文庫)

ヴァチカンは犯罪者の温床なのか。キリスト教に殉教した聖人を模した殺人。殺された人間の意外な共通点。教会に人間の皮を持って乱入した男が言い残した、「殉教者の血は教会の種子である」というテルトゥリアヌスの言葉に隠された謎とは。
ダヴィンチ・コード」がこれだけベストセラーになってしまうと、中世のキリスト教にまつわる歴史ミステリは、二番煎じのように受け取られてしまうのは、仕方がないことなのかもしれない。「ダヴィンチ・コード」を読んで、キリスト教史に詳しくなった、雑学知識がついたといって喜んでいるだけでは、ミステリを堪能しているとはいいがたい。この「死者の季節」は、単なるキリスト教史を題材にしただけの歴史サスペンスではない。読み応えたっぷりのイタリア警察小説なのだ。歴史云々よりも、登場人物の魅力や表には出せない警察事情、上司、相棒、謎の女と複雑に絡みあって苦悩する若手刑事の奮闘などなど、小説としての面白さも兼ね備えている。ヴァチカンの陰謀などという、現実離れしすぎた設定に、歴史的観点を融合させた「ダヴィンチ・コード」は娯楽小説と言った感じだが、「死者の季節」は、洗練された警察小説であると、心構えして読み始めることをお薦めする。
「死者の季節」を面白いと感じるのは、警察小説としての完成度もそうなのだが、テンポのよいサスペンスの合間に語られるキリスト教史、かつて「赤」の指導者だった年老いた主人公の父が語る宗教観。これが途出することなく、うまく物語りにとけこんでいる点であろう。一般宗教としてのキリスト教とはなにか、そもそも宗教とは何なのか。そんな宗教哲学にも触れることができる。
ダヴィンチ・コード」に勝るとも劣らない、「死者の季節」は素直にお薦めできる作品である。

2007/02/06 asuka