06_アムステルダム運河殺人事件

表題の「アムステルダム運河殺人事件」と「セント・アンドリュースの事件」の中篇が収録されている。
アムステルダム運河殺人事件」は、実際あった迷宮入り事件を、少ない証拠をもとに松本清張が独自の推理を展開している。作中でも言及しているが、ポーの「マリーロジェ事件」と構成は同じである。ただし、清張の場合は答えをひとつに限定せず、考えられる可能性を2つにしていることが特徴だろう。推理のスタート地点を少し変えただけで、導き出される答えが2つになり、そのどちらもが筋のとおった推理となっていることに脱帽する。この手の小説の題材では、切り裂きジャックがよく取り上げられるが、「アムステルダム運河殺人事件」は、事件自体はショッキングだが知名度がないので、それが逆に新鮮に感じた。
「セント・アンドリュースの事件」は、読者のミステリ経験値にもよると思うのだが、ありふれた感が拭えない作品。ただし、転んでもただで起きないのが松本清張。動機がやはりブラックである。人間の怖さ、ずるさが生々しく書かれている。

2007/01/25 asuka