15_横溝正史翻訳コレクション

横溝正史翻訳コレクション 鐘乳洞殺人事件/二輪馬車の秘密―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

横溝正史翻訳コレクション 鐘乳洞殺人事件/二輪馬車の秘密―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

収録されているのが海外作品なので、あえてカテゴリーは海外とした。
横溝正史がまだ「新青年」の編集長時代に翻訳した2作品を収録。横溝正史の訳がどうこうと語る前に、ウィップルとヒュームの作品が読めることの嬉しさの方が大きい。「鍾乳洞殺人事件」は1934年、「二輪馬車の謎」は1886年の作品だ。この2作品を読んでみて、横溝正史への影響はさることながら、海外の名だたる作家に与えた影響も伺うことができるであろう。
「鍾乳洞殺人事件」は、しっかりとした本格ミステリである。トリック自体は不自然さを感じるが、当時からしてみれば斬新なトリックなのだろう。伏線の張り方もよく、回収も無理無く行っており、実にフェアな印象だ。格別、横溝作品と比較する必要はないのだが、やはり金田一シリーズで似たような場面が思い浮かぶ。鍾乳洞といえば「八つ墓村」だし、迷路のような地下道と言えば「迷路荘の殺人」だ。また、「鍾乳洞殺人事件」に登場する地元警察の警部は、どことなく轟警部なのだ。横溝正史もこの作品からひらめいたものがあるのだろう。
「二輪馬車の謎」は、前半が時限サスペンス、後半が謎解き。最後にどんでん返しを狙った感じだが、私にはハマッた感じがしなかった。ウィリアム・アイリッシュの「幻の女」が1942年の作品である。60年近く前に同じプロットのミステリが、この質の良さで書かれていたことに感動さえ憶える。
「鍾乳洞殺人事件」「二輪馬車の謎」ともに、ずば抜けて傑作と言うわけではないが、古典的価値、また横溝正史の翻訳という価値を堪能して欲しい一冊である。

2007/01/07 asuka