12_青チョークの男

青チョークの男 (創元推理文庫)

青チョークの男 (創元推理文庫)

悪い方のシリーズ第1作の特徴的なできになってしまっている。ストーリーの枠組みと言うよりも、登場人物の立上げに重点を置いてしまった感じ。確かに1作目でしっかりとキャラクターが確立されれば、2作目以降ストーリーの展開の仕方が容易になるのはわかる。ただし、このボリュームでそれをやられてしまったのでは、ストーリー的にさらに言えば、ミステリ的に薄味になってしまう。そこが本作品のマイナス点。
先に翻訳されている「死者を起こせ」の仕上がりが良かっただけに、なんとも残念である。
でも、そこは名手フレッド・ヴァルガス。前述のとおり弱い部分はあるものの、最後で読みどころを作っていて面目躍如。予想できる展開ながらも、文章のうまさでカバーしている。小手先のごまかしでなく、ガップリよつに組める本格モノをかける力量は備わっている作家だと思うので、シリーズ2作目以降に期待といったところか。

キャラクターについては、流石にしっかり書かれているため、印象に残る人物が多い。謎解き係りは、警察署長のアダムスベルグ。ワトソン役は部下であるダングラール。直感的なアダムスベルグと理論で攻めるダングラール。対極的な性格の二人のやり取りが面白い。また、脇役に妖しげな女性海洋学者マチルド。ひょんなきっかけでマチルドのアパートに居候する身になった盲目の青年シャルル。2作目以降もマチルドとシャルルに翻弄されていく警官二人と言う図式になるのであろう。
シリーズがもういくつか翻訳された後で、連続して読んだほうが楽しさが増すと思う。


2006/05/15 asuka