11_魔王の足跡

魔王の足跡 世界探偵小説全集 (43)

魔王の足跡 世界探偵小説全集 (43)

ジョン・ディクスン・カーが生誕100年と言うことで注目を浴びたのか、と思われるくらいカーの作品に近い匂いがプンプンしてくる。ベロウの誕生年は1902年らしいので、ベロウがカーを、その逆のカーがベロウをリスペクトしたとかオマージュだとかはありえない。が、雪の中の足跡と言った不可能犯罪とオカルト趣味は、あまりにも似かよっているのである。約100年前に似たような、雪の中の足跡事件を持ち出し、その足跡事件でささやかれる「悪魔の足跡」と言われるオカルティックな噂を挟み込んだり、酔った時にだけ現れるという「青い女」の幽霊の話などなど。

雪の中に残された謎の足跡の先には、自殺と思われる死体。数日後には同じ足跡と共に発見される撲殺死体。その謎の足跡のトリックに的を絞った、謎解き。雪の中にどうやって足跡をつけたのかにばかりに拘りすぎて、その他がおろそかになってしまっている印象を受ける。が、トリックの真相は充分に書かれている。大風呂敷を広げたわりに、スマートにたたんでいるのだ。「魔王の足跡」のトリックはいくつかの複合技で解決させ、犯人の意外性もピタッと、はまった感じである。遠まわしな謎解きが多い最近の本格と比べれば、実に直球的でしかもトリックに的を絞っている点など、面白く読める本格ミステリであることは間違いない。

この「魔王の足跡」は探偵役を務めるスミス警部のシリーズもののようだ。解説によれば5作ほど書かれているらしい。作中に出てくる「魔王の足跡事件」よりも先に起こった「主教の剣事件」が、どんな内容の事件だったのが非常に気になる。解説であらすじが書かれているのだが、それを読むだけでも気になって仕方がない。ベロウの作品がこれからも翻訳されることを祈るばかりである。


2006/03/25 asuka