08_獲物のQ

獲物のQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

獲物のQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

2003年にハヤカワノヴェルズから刊行されていたものの文庫化である。

キンジーシリーズを読むのは久しぶりである。個人的には「死体のC」「証拠のE」が好きな作品だ。シリーズ全作を読んでいれば、それぞれの作品で比較ができるのが、10作も読んでいないのでシリーズについて深く語る資格はないのかもしれない。
この「獲物のQ」はシリーズ17作目の作品である。ここまで長く続いているとシリーズの世界観も確立され、読んでいて安心できる。が、反面、シリーズを追いかけていない人間には、その世界観が高い敷居になるのは間違いない。キンジーの性格や過去の事件、プライベートな出来事が絡みだすとなかなかついていきにくいものである。その点スー・グラフトンは、作品で起こる事件と、キンジーの現在進行形で進んでいる恋愛の話や幼い頃に不慮の事故で無くした両親と親戚との間に生まれている壁の問題などの、プライベートな部分を別物として切り離して扱っているのが、シリーズ未読の人間に対しての配慮をしていると思うのだ。

さて、「獲物のQ」。1969年に現実に起こったジェーン・ドゥ事件をモチーフに書かれ、発表当時は全米で大きな反響を受けている。18年前に発見された少女の死体。多くの遺留品があるにもかかわらず、未だに被害者の身許が判明しない。その後彼女はジェーン・ドゥ(身許不明の女性)と名付けられまま、警察の記録書類の中に埋もれていた。
ストーリー的にはひとつの偶然から、ボロボロと今まで明かされなかった事実が浮き彫りにされる。だが、いくら18年前の事件とはいえ、引退した刑事と私立探偵が事件を調べ始めた途端に事件の真相に急接近すると言うのは、少し都合が良過ぎる感じを受けた。キンジーと心臓病を患った警部補と癌に犯された老刑事との、会話から3人の信頼感や、事件に取り組む彼女達の一生懸命さが伝わってくる。グラフトンのように実績があれば、ミステリ的には完成されているので、いまさら云々言うべきところもない。

本国ではシリーズ19作目となる「S is for Silence」が発表されているようだ。シリーズも17作目となると、流石にこの「獲物のQ」だけでもと言う薦め方はできない。いまからキンジーシリーズを全部読めと言うのも酷なので、せめて、前半のA〜Eくらいまでの数冊を読んでからのほうがより楽しめるだろう。

2006/01/29 asuka