06_廃墟ホテル

廃墟ホテル (ランダムハウス講談社文庫)

廃墟ホテル (ランダムハウス講談社文庫)

忍び込む者−廃墟のもつ魅力に取り付かれた彼らと共に、新聞記者バレンジャーはかつての豪華ホテルに侵入した。畸形のネズミ、5本足のネコが棲まう建物を探索するうち、秘密の通路を発見!
オーナーの大富豪、カーライルはそこから客室を覗いていたのだ。そして客室で起きた殺人、虐待といった惨劇の痕跡を保存したまま彼はホテルを閉鎖していた−
その異常な光景を目にした瞬間、一行の背後に怪しい影が忍び寄る。

これは、カバーに書かれたあらすじである。
見事に騙された。これを読む限りでは、ホラーに思わない人間がいるだろうか。「13ゴースト」のようなオカルトホラーを連想して読み進めていたのだが、行き着いた先は閉鎖空間でのサスペンス物。とびきり面白いわけでもなく、怖いわけでもない。ただ、まさしくジェットコースター的な話の進み方に、ページを捲る手が止まらなくなるのだ。規模の小さくなった「ダイ・ハード」と、「クロック・タワー」のちょっとした怖さをもった作品だ。そのバランスが絶妙だったのと、訳が読みやすかったのが勝因のなだろう。

タイトルのとおり舞台は廃墟になったホテル。そこに忍び込むクリーパーズと呼ばれる都市探検隊のグループ。廃墟となったホテルには近親交配を繰り返したせいと思われる、尾が二本あったり、目が一つしかなかったりする畸形のねずみ。どこから入り込んだのか、後ろ足が3本ある猫。閉鎖された20年前のまま保存されていた寝室。ホラー要素ばかりが目に付く序盤とはうって変わって、中盤以降、道が外れたかのように展開されるサスペンス。裏切られた、騙されたとしかいいようがないのだ。だが、読み終わって作品の内容が残っていない。後味すっきりなのだ。これは、本当に騙されたと思って一読して欲しい作品である。

作者デイヴィッド・マレルは映画ランボーの原作だった、「一人だけの軍隊」の作者だ。その他にも数点翻訳されているが、残念ながら未読だ。あとがきを読む限りだとかなり上質のホラーを書くようだ。ミステリもそれなりにこなす器用さを持っている作家だ。その器用さが全面的に出た、ちょっと異質な(私が騙されたからそう感じるだけなのだが)ジェットコースターサスペンスである。

2006/01/17 asuka