01_グーテンベルクの黄昏

グーテンベルクの黄昏 (創元クライム・クラブ)

グーテンベルクの黄昏 (創元クライム・クラブ)

「写本室の迷宮」で第12回鮎川哲也賞を受賞した、後藤均の3年ぶりの新刊。
1944年第2次世界大戦下のヨーロッパ。「写本室の迷宮」で活躍した画家であり探偵である星野が遭遇する、不可能犯罪と思いもよらない冒険を綴った手記に書かれた謎を、富井教授がひもとく。
星野は冒険のきっかけとなる、ドイツ占領下のイギリス領ガーンジー島での殺人を調査を開始。そのガーンジー島で星野が事情聴取をしたマントイフェル伯爵夫婦が数年後、星野も招かれたドイツでの晩餐会で、密室状態の部屋で死んでいるのが発見される。さらに、ヒトラーの切り札<ロムルス>の謎にも着手することとなる。

第2次世界大戦下のドイツ、フランスの歴史小説を書きたいのか、画家星野の<ロムルス>にまつわる冒険小説を書きたいのか、不可能犯罪の謎解き小説を書きたいのか、どのテーマにするのか絞りきれていない為に不完全燃焼に終わってしまった。ストーリーを考えて見れば、不可能犯罪をわざわざ書くこともなかったのではないだろうか。

また、星野の冒険を取ってしても、取り巻く環境はスリリングな物の星野自身に試練がまったくないため、緊張感さえ感じることができない。歴史小説の部分も、ドイツを中心とした大戦の説明の教科書を読んでいるようで、面白さを出し切れていない。星野の手記を読んで富井教授が<ロムルス>の謎解きをする最後の章にいたっては、イギリスとフランスの中世史のおさらいでしかない。いろいろ題材を取り込んで、話のふくらみを持たせようとした作者の意図が分からなくもないが、あれもこれもと欲張りすぎて、さばききれていない印象を受けた。

「写本室の迷宮」に引き続いた(時間軸では「グーテンベルクの黄昏」の方が前なのだが)戦時中の画家星野と現代の大学教授富井のシリーズである。本作を読んだ感じだと、この2作で完結しそうだ。このキャラクターの呪縛が解かれる次回作に期待したい。

2006/01/14 asuka