04_狼の帝国

狼の帝国 (創元推理文庫)

狼の帝国 (創元推理文庫)

グランジェの作品は、飛び道具的な感覚をもっている。「クリムゾンリーバー」の結末を読んだ時に、その印象が植え付けられた。
この「狼の帝国」は「クリムゾンリバー」以上に飛び道具的なミステリだ。これほどまでに、自滅的(作品の面白さが自滅していくという意味ではない)、崩壊的な結末を誰が予想できよう。グランジェの皆殺しにいたる病は、ある種Zガンダムの最終回を見ているようでもあった。

夫の顔が突然見知らぬ人間に見えてしまう、奇妙な記憶障害の症状に悩まされるアンナ。いっぽう、トルコ人街で起きた、不法入国者と思われる女性の顔を切り刻んだ連続猟奇殺人事件を追う若い警部と、引退したトルコ人街を牛耳っていた刑事。一見、なんの繋がりもない二つの物語が、真相が見えそうで見えないまま結びついていく。そしてトルコの歴史を紐解いていくと、「灰色の狼」なる組織が明らかになってくる。「灰色の狼」と連続殺人事件、記憶喪失の女との繋がりはなにか。
奇数章には記憶障害の女アンナのストーリーが、偶数章では連続猟奇殺人を追う二人の刑事のストーリーが並行して進んでいく。場面がパタパタと変わりながらも、緊張感を失わず、二つのストーリーがどこで交わるのかという期待を持たせ、最後は畳み掛けるような展開。上質のサスペンスを味わうことができる。「クリムゾンリバー」で見せたグランジェの旨さに磨きがかかった作品と言えよう。

この作品を原作とした「エンパイア・オブ・ザ・ウルフ」がジャン・レノ主演で製作されている。解説を読む限りでは、後半のストーリー展開が小説と異なるようだ。映画と小説の結末を比べてみるのも面白いかもしれない。

2006/01/08 asuka