03_ローリング邸の殺人

ローリング邸の殺人 (論創海外ミステリ)

ローリング邸の殺人 (論創海外ミステリ)

乱歩が絶賛した作家にもかかわらず、翻訳に恵まれないロジャー・スカーレット。
発表した作品は5作しかないにもかかわらずだ。そんなロジャー・スカーレットの唯一の未訳長編の本作が翻訳されたということは、まさに大事件なのである。
「ローリング邸の殺人」以外のロジャー・スカーレットの4作品は次のとおりである。
「エンジェル家の殺人」は乱歩の「三角館の恐怖」に繋がっているせいか、創元推理文庫で入手可能だ。「猫の手」は新樹社から発売されている。これも入手可能。
その他の2作品については、かなり昔の雑誌でしか読めない。当然ながら未読である。
「ビーコン街の殺人」は雑誌、新青年の1940年春季増刊に掲載されているらしい。「白魔」も雑誌、1954年に発売された別冊宝石39号に掲載されているらしい。
各作品については解説に詳しく書かれているので、そちらを読んで欲しい。

すごくシンプルなつくりの作品である。読んでいて無駄がないので、苦にならない。意味のわかりにくい海外独特のユーモアや、しつこいほどの形容や、作者の知識への脱線などいっさいなく、徹頭徹尾推理小説を貫いている。だからこそ古典、それも海外の古典を敬遠してきた人には、是非読んで欲しい作品だ。これほど純粋に本格ミステリを堪能できる作品は、なかなかお目にかかることはないのではないだろうか。
とある屋敷の主が、病死に見せかけて殺される。主と関係のある人間は、妻、義妹、執事、主治医、親友と名乗る男の5名だけ。館という閉鎖空間の中で容疑者は5人。いくつか張られた伏線。ちりばめられたヒント。読者への挑戦状などなくても、「犯人探しをしてやろう」と読者に思わせる面白さが、そこにはある。そして、伏線の回収と納得の回答が最後には用意されているのである。
華やかさは「エンジェル家の殺人」に譲るものの、30年代の本格黄金時代を代表する、素晴らしい作品である。

2005/01/05 asuka