50_破壊者
- 作者: ミネット・ウォルターズ,成川裕子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/12/22
- メディア: 文庫
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ウォルターズは人間の暗い部分を抉り出し、さらけ出す天才だと思っている。それだから、読後にやり場のない絶望感と後味の悪さが残る。ほぼ毎回、その感覚を産み落とせるのは、ウォルターズだからこそであり、最大の特徴だろう。本作も多聞にもれず、登場人物の一方的な感情の主張が事件の根底に流れ、救いようのない気分になる。
レイプされたあげく、生きたまま海に投げ込まれて死に至った被害者にさえも、死んだあとでも容赦なく悪口がささやかれる。それも、殺され方に合うように被害者の言動を無理矢理こじつけて、決め付けるように一方的に。テレビのワイドショーでインタビューを受けている近所の人がするコメントそのままだなと、日常に普通にある不快感を思い出させるのだ。
本作もそうだが、デビュー作の「氷の家」、「囁く谺」や「蛇の形」などから、事件の凄惨さよりも、人間の偽善的な態度や発言の方が、よっぽど醜いという強いメッセージを感じずにはいられない。事件の酷さから人間の酷さへと読者を導くのがウォルターズの面白さだと確信している。
2012/1/14 asuka