10_模倣犯
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第一部は女性連続誘拐殺人事件を、客観的にドラマティックに展開していく。これからどう動くのか、犯人は誰なのか、緊張感もありサスペンス要素がふんだんに盛り込まれる。登場人物の立ち位置などもうまく、文庫1冊分の分量があるものの導入部としては申し分ない。
第二部は、第一部の女性連続誘拐殺人事件を、主観的に粛々と展開。第一部と時間軸が前後し、発生までの経緯、発生時の犯人の動向、そして意外な事件の結末を静かに書ききっている。
第三部は、一転「ピース」を中心とした人間ドラマを経て、女性連続誘拐事件の終息へ。
期待していたものが大きかったのか、物語の前半が面白すぎたのか。スタートダッシュに成功したものの、後半の息切れが大きかった。物語の構成上、謎解きだとか真相解明という盛り上がり方にはならないのは承知した上で読んでいたのだが、あっけなさすぎたというのが正直な感想だ。第二部で人間に眠る残忍さや狡賢さ、心の弱さなどを見せたかったと思うのだが、第三部で主役を張る人物「ピース」の心の内側をえぐっておいた方が、物語の最終部分で生きてきたのではないかと思った。
作品を通じて、全体的に優しい感じを受けた。それが宮部みゆきを感じたということなのかもしれない。書かれている事件の内容はえげつないし、第三部での「ピース」の行動からは優しさという言葉は当てはまらない。ただ、「ピース」をはじめとした登場人物に救いを与えようとしている優しさ。事件は解決するものの、絶望という奈落に落ちていかない優しさ。読後に怒りの矛先や憎悪の向き先を残していない。事件そのものが終わり、まさに小説が終わったと言う感じ。現代に起こる犯罪を象徴しているのかもしれない。犯人が逮捕され、報道がされなくなって事件が終わり、マスコミのお祭り騒ぎが終わる。それを見ている、いや見せられている第三者は、それで終了。怒りの矛先や憎悪の向き先なんか、これっぽっちも残っていない。そんな社会への希薄さを思い出させる。その希薄さを感じさせ、読者が「模倣犯」の世界観に取り残されないようにしたことが、この作品に対する宮部みゆきの優しさなのかもしれない。
2007/08/21 asuka