63_TOKYO YEAR ZERO
- 作者: デイヴィッドピース,酒井武志
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/10/11
- メディア: 単行本
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小平事件は本作をスタートとする「TOKYO YEAR ZERO」シリーズの足がかりに過ぎない。壊れているのか、壊れていくのか、壊されていくのか、読者はいつのまにか三波警部補が感じている不思議な感覚の只中に置かれる。脳がしびれるような文章が止め処もなく押し寄せる。その感覚の中、物語は進み、留まりまた進む。小平事件の真相を求めているのか、三波警部補を取り巻く歪んだ環境の真相を求めているのか。形取られていた戦後の風景が歪み、崩れていく。そして物語が進むにつれ、見え隠れする事件の真相と三波警部補の真相。しかしデイヴィッド・ピースはその真相の答えを簡単には教えてくれない。重要なのは小平事件の真相ではなく、主人公の三波警部補の視線を借りて書かれる戦後の東京の真の姿であり、三波警部補の真の姿なのであるというメッセージ。「自称通りの人間は誰もいない...。」この言葉のもつ意味はとても大きくて、重い。
注意しなくてならないのは、この作品は読者を選ぶということ。プロローグと第1章で容赦なく読者を篩いにかける。篩から落とされなかった選ばれた読者だけが、驚愕のラストを味わうことになる。これがデイヴィッド・ピースの洗礼なのだ。自分はヨークシャー4部作でデイヴィッド・ピースの洗礼をモロに受けた。「TOKYO YEAR ZERO」では作品に読者として選ばれた(ような)ので、読後の到達感と2作目以降への期待を手に入れることができた。特殊性から万人には強く薦めることはできないが、少しでも気になったとしたら是非挑戦してほしい作品である。
2012/11/26 asuka